「鍛えた筋肉は有害物質を体から一掃する酵素を作り出す」 (カロリンスカ医科大学)

鬱には運動がよいと言われていますが、体内で何が起こっているのかの解明が進んでいるようです。スウェーデンのカロリンスカ医科大学(研究所)の研究が Cell に掲載されたそうです。まず日本語紹介記事(3, 4) を読んでから Cell の概要(1)にある図を眺め、プレスリリース(2)の平易な英文、Cellの概要(1)とすすむとわかりやすいと思います。

  1. Cell 概要)Skeletal Muscle PGC-1α1 Modulates Kynurenine Metabolism and Mediates Resilience to Stress-Induced Depression: Cell (図概要がわかりやすい)
    • 「骨格筋 PGC-1α1 がキヌレニン代謝を調節しストレス誘発性鬱病への回復力(レジリエンス)を媒介する」(というような題名)
  2. (カロリンスカ医科大学のプレスリリース)How physical exercise protects the brain from stress-induced depression | News | News | Karolinska Institutet
    • 「いかにして運動がストレス誘発性鬱病から脳を守るか」(というような見出し)
  3. やっぱり運動はスゴい!エクササイズがストレスによる鬱病を防止するメカニズムの1つが判明!! – IRORIO(イロリオ)
  4. 運動によって骨格筋が刺激されると、鬱の原因物質が “解毒”される ―Cell – | Technity

(キーワード: PGC-1α1、キヌレニン、KAT (kynurenine aminotransferase) )

研究した Jorge Ruas 氏によると、

鍛えた筋肉は有害物質を体から一掃する酵素を作り出します。この意味では筋肉の役割は腎臓や肝臓をほうふつとさせます。

とのことです。(プレスリリース)

「キヌレニン」で検索すると、この物質がうつ病に関わっていることは知られていたようです。

キヌレニン(Wikipedia)はトリプトファン(Wikipedia)からできますが、摂取された約95%のトリプトファンはキヌレニン経路で代謝されます。ほかにトリプトファンからは別の代謝経路で、うつ病で有名なセロトニン、眠りに関わるメラトニンも作られます。キヌレニンが代謝されるとキヌレン酸(kynurenic acid (KYNA or KYN)。Wikipedia)になりますが、kynurenic acid の名称は犬の尿にちなむそうです。ラテン語で犬は canis、英語でも、おおいぬ座が Canis Major、犬歯が canine tooth ということを連想すると、多少は kynurenin を覚えやすいかもしれません。

PGC-1α1 と キヌレニンと KAT との関係がわかりにくいのですが、おもにプレスリリースから訳してみると、

筋肉の PGC-1α1 濃度が高いマウスは KAT(キヌレニン-アミノ基転移酵素)という酵素の濃度も高いことがわかりました。KAT はストレスのさなかに作られる物質(キヌレニン)をキヌレン酸に変換しますが、キヌレン酸は血液から脳に通り抜けません(脳関門を通過しない)。キヌレニンの正確な機能はわかっていませんが、精神病の患者に高い濃度のキヌレニンが計測されます。

通常のマウスにキヌレニンを与えると鬱行動を示すようになりますが、筋肉の PGC-1α1 濃度を 高めたマウスには影響しません。実際のところ、鍛えられた筋肉のKAT 酵素がキヌレニンをキヌレン酸にすぐ変換してしまうので濃度が上昇するようなことはなく、結果的に防衛機構となっています。

この研究では、運動しなくても PGC-1α1 濃度が高くなるように遺伝子操作したマウスを使っていますが、ふつうは、骨格筋を運動させることで PGC-1アルファ1 というタンパク質が増えるのだそうです。PGC-1α1 が、キヌレニンとキヌレン酸のバランスを KAT で整えようとして、それが脳も守るということになります。脳関門を突破する薬ではなく、生化学的に、筋肉のほうから働きかける可能性が開けたわけです。

勝手に全文翻訳して公開するわけにもいかないので、詳しいことは原文にあたるということで…。また、私は医学も生物も化学も、ただの素人ですので、間違っていてもあしからず、念のため。

運動して骨格筋を鍛えましょう。

(2014/10/3)