早川文庫 FT から「新装版」で刊行中. ベルガリアード物語 全5巻 までが発行されたので, 少しずつ読み始めている. 「旧装版」のほうは何度繰り返し読んだことか. マロリオン物語のほうは翻訳される前に目を通して, 意味もはっきりわからないままにわくわくどきどきしたものだ.
Hayakawa Fantasy is re-publishing these series. Five Belgariad books has completed. I begin reading these new books. Older series has been always at front of my bookshelf.
今回の新装版のシリーズでは, 未邦訳の「魔術師ベルガラス」と「女魔術師ポルガラ」の刊行が予定され, 「リヴァの古写本」もひょっとすると?という状況らしい. 「ベルガラス」も「ポルガラ」も, 数十世紀を生きてこの世界の歴史を作ってきた魔術師の半生記だから, 慣れない原書で読むのはなかなかつらいものがある.
Hayakawa Publishing says, this time, "Belgarath the Sorcerer" and "Polgara the Sorceress" will be translated into Japanese. Japanese readers must be welcome.
「新装版」と銘打って版を替えているからには, 果たして明白な誤訳類は訂正されているのかどうか興味津々. 物語の流れに合わないので原書と照らし合わせて「誤訳」と言い切れるところもあったし, 「日本語が明らかに間違ってます」といいきれるところもあった. それらは校正しなおされているのだろうか.
I wonder how they re-publish them. Older Japanese versions have some mistranslations. Are they corrected?
(2005.06.26 - librarian)
デイヴィッド・エディングス 著,宇佐川晶子 訳,早川書房.
従来版は FT 文庫の背が白い時代,ドラゴンの紋入りのもので, 紙も黄ばんできている. 印刷も見比べるとだいぶ違っていて,版組も異なっている.
印刷しなおしただけかと思ったが,校正をしなおしたようである. 読み始めてすぐ気がつくのが,「センダー」が「センダール」になっていること. センダリアの首都の呼称が変わった. もっとも,機械的に変えすぎたせいか, 従来「センダリアの王」で国の王と原書に沿っていたところが 「センダールの王」と都市の王になってしまっているところもあり,ちょっと残念.
この手の呼称の変更は各所に及び, アレンディアの「ワサイト」は「ワキューン」に, ヘターの称号「シャ・ダール」が「シャ・ダリム」になっている.
地名や呼称の変形はあとになって原形がわかることが多いのでやむを得ないところではある. あるいは,どれが原形といえるのかもなかなか日本人にはわかりづらいものだ.
そのほか,ポルガラが初めてエラト公爵夫人を名乗るところで, 連隊長の呼びかけかたが,従来版「閣下夫人」から新装版「公爵夫人」に変更されている. このあたりもシリーズを通しての変更になるのだろう. 物語のこの時点では,ポルガラが本物の現役エラト公爵夫人であることはわかっていなかった. もしも本当なら,ポルガラが数千歳であることを暗に示している.
概ね良いほうに直っているようだが, なおされないままのところも多い. チェレクでガリオンに「きみを知っているマーゴ人」は「きみが知っているマーゴ人」になおされていないなど, 完璧を求めるほどには校正されていない. (「センダリアの王」も,この部分も原書に当たらなくても, 日本語の文章の流れでおかしいとわかるはずなんだが).
そんな細かいことが気になるほど,私は「予言の守護者」を読み続けてきたということだ. 話の流れと背後関係が頭に入ってしまっている. 日本語版の言い回しすら覚え込んでいるところが多い. 昔,今ほど出版物が多くなかった頃,読書百遍意自ずから通ず といわれたり, 故事成語というものができたりしたのは,ごく普通のことだったのだろう.
Some names, pronunciations or declension, especially geographical names, are changed, may be corrected, in new Japanese version. e.g. Sendar, Sendarian. Wacite, Wacuun. Sha Dar, Sha Darim. (may misspeled by me)
It is dificult for Japanese translators to decide which is a place name, a race, a tribe, and a noun or a adjective. I guess Hayakawa FT editors corrected many proofs.
(2005.06.25 librarian)
デイヴィッド・エディングス 著,佐藤ひろみ 訳,早川書房.
見開きの地図,日本語文字部分はすべて写植しなおしてあるのを発見. 従来版よりも地名などの情報量は少なくなっている. 抜けたのか,原書の元版で抹消されたのかは不明. もともと,アメリカ版に存在する地図の文字部分を日本語に差し替えたものだったが. イギリス版のペーパーバックでは,私の知る限り,地図は存在しない. その代わり,装訂(紙質,印刷)はイギリス版のほうが良かった.
さて, 地名・民族名表記を統一しようという心がけはいいが, アレンディアで,「ボー」を必ずつけて表現しようというのは無理があるように感じる. 「ボー」は,私の推測では,その民族の中心都市の街の名前を示す接頭語であって, 民族名・地名の語幹ではないと思うからだ. ボー・アスター,ボー・ワキューン,ボー・ミンブル. どれもアレンド民族群のうちの,アスター,ワキューン,ミンブルの民族の都市名だ. 民族名(地名,国名)としては,アストゥリア,ワサイト,ミンブレイト(たぶん....).
レルドリンはワイルダンターの男爵家の人間だが, マロリオン物語ではウィルダントルと訂正・統一されていた. 表記を元に戻すのだろうか.
ボー・マンドール男爵 マンドラレンの持つ剣が, 「だんびら」から「大剣」に差し替えられている. やはり,だんびらはわかりにくいと不評だったんだろう. ボー・マンドールもボー・マンドルから元のボー・マンドールに戻っている.
「ムリン古写本」は「ムリンの書」に統一しようとしているようだ. ただし,古写本のままになっているところもある.
ボー・ミンブル入城直前の描写で, マンドラレンが「しんがり」で列の先頭にいる. なおっていない.
ドリュアドの森でのカドール大公との対決で, ヘターが「シャ・ダール」と呼びかけられている. 校正不足かと思ったが, 原書でも Sha-Dar である. 元々記述に揺れがあるようだ.
(2005.06.27 librarian)
デイヴィッド・エディングス 著,佐藤ひろみ 訳,早川書房.
マンドラレンがセ・ネドラのためにライオンを絞殺する少し前, 列の先頭にマンドラレンがいて,セ・ネドラが追いついてくるところ. 従来版:「例によってみんなのしんがりをつとめているマンドラレン男爵と馬を並べようと」, 新装版:「例によって一行の先導役をつとめているマンドラレン男爵と馬を並べようと」, に修正. これは日本語の文章としてかなり目立つミスだったので,当然だろう.
アルダー谷の「木」のもとでアルダー神が「...例の道具を渡そう」. 原書: "... provide you with that instruction ..." 道具というより指示を与えているようですよね. ちなみに,このシリーズを通して,このときの「道具」らしきものは出てこない. 好意的に考えれば,訳者が使用した原書の版は,instrument と誤植されていたのかもしれない.
アルダー谷からプロルグへ向かう途中,ウルゴ山中で, 馬の姿をした肉食の怪物と遭遇する. その名を新装版「フラルギン」,従来版「フラルガ」. 原書を見ると,フラルガ Hrulga が単数形,フラルギン Hrulgin が複数形. なぜわざわざ複数形に統一したものか?
(2005.06.28 librarian)
デイヴィッド・エディングス 著,柿沼瑛子 訳,早川書房.
珠を取り戻した一行が,センダールで足止めを食っているところ. 「だがベルガラスの心配は決して杞憂ではなかった.」(新装版,従来版とも). 対応英文は,"The old man's concern, however, was unfounded." 日本語の文章の流れに違和感ありますよね.
ポルガラがセ・ネドラに,なぜ軍を率いようとしているのか問うて,セ・ネドラ曰く, 新装版「『だってこれまで誰もやったことがなかったんですもの』」. 従来版「『だってこれまで誰もやってこなかったんですもの』」. 原書 "Well, it's never been done before." 微妙な,受験英語のごとき違い.
(2005.06.28 librarian)
デイヴィッド・エディングス 著,柿沼瑛子 訳,早川書房.
野営地で,セ・ネドラにダーニクがランドリグとドルーンを紹介するところ. ドルーンに関する描写で, 新装版:「だがその連れにいたってはのろまとしかいいようがなかった」. 従来版:「だがその連れはもはやのろまとしかいいようがなかった」. 原書: "His companion, however, was anything but slow." 私訳:「だがその連れは決してのろまではなかった」. ランドリグはアレンディア人だからのろまといえるが, ドルーンはこの直後の描写からもわかるとおり, また,別訳者の第1巻の話の中でも,とても活発な性格をしている. "anything but ..." と "nothing but ..." の取り違えか? その昔,翻訳者が誤訳することがあるなどとは夢にも思わずに小説を読んでいた頃, この部分は原作者による間違いだろうと思っていた. なにしろ,原作者による設定変更はときどきあるもの. しかし,原書を手に入れ,該当箇所を読み, これは誤訳だろう? としか言えなくなってしまった. これ以来,日本語に翻訳した文章が全体の流れから判断しておかしい場合, 「誤訳?」と疑うようになってしまった. もっとも一般的には,原文の英語からして変,ということもままある. ベルガリアード物語の新装版ではあちこち表現の改訂が行われているので, ここはなおっているだろうと期待していたのだが,残念.
One sentence, describing Doroon who is one of Garion's boyhood friends, "His companion, however, was anything but slow." I think Doroon is never slow, but both Japanese versions describe he is very slow. I am sad.
(2005.07.01 librarian)