頻繁に上野の博物館の前を通っていたのだが, 心理的・時間的・体調的に門の前を通り過ぎ続けていた. やっと余裕ができて観覧することができた.
開館の9:30に当日券(Web割引券)購入の列(とはじめ指示された列)に並び, 絵の前まで来たのが大体10時ころ.
Webの割引券で1500円が1400円に割引になるが, どうやら日付指定はないらしい. 前日までに博物館の入場券売り場で買っておいたほうがよさそうだ. 入場券があれば中央の「入場券をお持ちの方の列」に直接並べる. 入場券を買う方は右の列に,と指示されるが, 左の入場券売り場でも割引券なら買えるので,無視してそちらに行くべき. さらに,ただの特別展当日券は学割だろうが右の列の先のほうの券売機で買えるので, 列の指示を無視して買ってしまえばよい. こういう情報を整理員が小出しにしてくるうえにまともに整列もさず, かなりの時間(10分以上)をロスしたので, どんどんイライラしていく.
門を入っても,本館の展示室前でまた行列. 長い傘はいったん列を外れて置きに行け, 大きな荷物はいったん列を外れてロッカーに置け, カバンは開いて手に持て, 金属検知器に引っかかるものは出せ,と大変. 金属検知器は大物の検出だけらしく, デジカメは出せといわれたが,金属ベルトの腕時計などははずさなくてよかったようだ.
「受胎告知」の展示室は「己」の字状に通路が作ってある. 下の棒のほうに部屋の入り口,上の棒の上に「受胎告知」と考えてほしい. 真ん中の棒のあたりは少し高い段になっていて手すりもあり, 「受胎告知」もそれなりによく見える. 「受胎告知」は右側(マリア側)から見ることを想定して描かれているそうなので, まず,このあたり右手(列の前の方向)で少し粘って場所を確保して鑑賞することをお奨めする. 一番上の棒に当たる通路は2本あって, 待ってもいいから人の頭越しではなく見たい人の列と, 人の頭越しでもいいから早く見たい人の列がある. 私は待つほうを選んだが,結局歩きながら絵の前を通るので,お徳かどうかは分からない. しかも,絵の近く過ぎるので,絵の右手から見るということができない. 話題の「低反射ガラス」は気をつけないと分からないくらいに透明だ.
文句ばかり述べたが, 「受胎告知」は,確かにきれいな絵だ. 西暦1400年代に描かれたとは思えないほど色も鮮明. 一見の価値はある.
「受胎告知」以外は平成館の2階. 絵画は「デジタル」スキャンの印刷. 「手稿」は「ファクシミリ」と書いてあるので何かと思ったら「複製」のこと. つまるところ,ダビンチ本人のオリジナルは「受胎告知」だけのようだ. 手稿の部分拡大と,それを解釈して作った模型,あるいはあちこちで流されるビデオをみていくことになる.
この特別展の主題は何かといえば,「受胎告知」の本物以外は, イタリアの原題を英訳したらしき英題, The Mind of Leonardo - The Universal Genius at Work である. ダビンチのノートをもとに,模型や映像で, ダビンチの天才的(自然科学的・哲学的)思索に迫ろう ということだ.
美術品を鑑賞するつもりではなく, 科学博物館で実働模型や実験装置や解説やビデオで学習するつもりで見ていく必要がある. そのためには朝一番に行って空いているときにじっくり検討するほうがよい. ただし,現代の科学と技術では,それは違うだろう,だめだろうという事柄も多いので, レオナルドはどう考えたか,と常に意識しておく. そうすれば,レオナルド・ダ・ヴィンチが天才といわれ,人を惹きつけてやまない奇才ぶりがよく分かる. もっとも,私は人だかりの中でひとつずつ意味を理解していくだけの気力はなく, チラッと眺めてほとんど通り過ぎたことは告白しておかなければならない. あのクレイジーでマッドで空想的で一途なアーティスト・サイエンティスト・エンジニアの気骨は見習いたいものだ.
特別展のあとは,博物館内を一通り巡り歩いた.
まずは,特別展のための映像を平成館一階で鑑賞. 特別展の中でもやっているが満員で, 同じ映像なら一階のがらがらの部屋で見てもよい. 特別展の内容をよく分かるためには予め見ておいたほうがよいのだが.
本館の展示は時々入れ替わっているので毎回新しい出会いがある. 今回は,明治時代の輸出用陶器で,リアルなカニを配した容器にびっくり. 陶磁器であんなにリアルなモデルを作れるとは.
国宝の部屋のポスターで,3月ころに鳥獣戯画を展示していたことがわかってがっかり. ミュージアムショップの複製の値段にため息をつき, 本物がみたかったと思う.
浮世絵の部屋では, 目を凝らして細部を観察. 有名な絵師の作品は実に繊細だ. 絵巻物もそうなのだが, 髪の毛の生え際一本一本,目鼻立ちなど, どんな筆を使ってどんな腕を持ってすればこんな線が書けるのだろうかと驚く. 少なくとも,いまどきの一般向けプリンタには到底まねのできない解像度だ.
刀・太刀の部屋では,隣で見ていた人が, 「この刀は罪人をまとめて4人試し斬りできたんだよ.最高の刀だね」と教えてくれた. 銘に「四胴」とあるのがそういう意味なんだそうだ. 普通は一胴か二胴がせいぜいなんだそうだ. 私はいまだに刀と太刀の外見上の区別がつかない. 展示では置き方の上下の向きで分かるようになっているのだが.
表慶館は,前に来たときは入れなかった. 実習コーナーのようなところで, 「銅鐸」を鳴らしてみた. 古墳時代のものはさびて深緑だが,青銅本来のきれいな色. 西洋のベルのように中に棒が入っていて,小さな銅鐸だったが揺らしたら大きな音が出た. 本来楽器だったという説もうなずける.
そんなこんなで夕方までうろうろ. 徒歩十数分の気安さで手ぶらで来たが, 水と糖分位は持ってくるんだったかなと思った. 飲み水も自販機もカフェテリアもあるのだが, 貧乏性だ.
一応一言. 「受胎告知」は見る価値あり. レオナルド・ダ・ヴィンチに興味のある人には面白い展示.
(2007.06.06 librarian)