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YNS_20070601 - *朝五時まで開いてるTSUTAYA,上野公園の闇

目次

朝五時まで開いてるTSUTAYA,上野公園の闇


一番スリリングな時期は過ぎてしまったが, 郊外の埼玉から谷根千エリアに出てきたカルチャーショックな日々をつづってみよう.

谷中,千駄木,根津あたりのことを谷根千と言うらしい. 最寄駅はJRでは日暮里,地下鉄では千駄木,根津である. 江戸情緒とか下町風情とか言われているが, 国道16号線的郊外に暮らす常識とは違う世界が広がっている. 谷根千,略して YNS と呼ぶことにしよう.

さて, このところ引越し疲れを癒そうとしているうちに, またしても昼夜逆転の体内時計になりつつある. 月末の大家さんの集金(これは初だ)のあと, 夜中になっても眠気が訪れないので散歩することにした.

夕方から夜にかけては雨がザーザー降っていたのだが, 日付をまたぐころから月がおぼろに出てきた.

月の終わりから始めにかけては文庫の新刊が発売される時期. ところが,YNS には大きな本屋というのが見当たらない. 町の本屋さん,駅前の本屋さんのようなお店は散見するが, 私が手に取るような本はあまりおいていない. 山手線の内側なので,日本有数の大型書店も電車ですぐそこにあるのだが, いかんせん,こういう本屋は夜遅くまでやっていない. 昔,私が子供のころは大体6時や7時には閉店だったが, 今では世間が夜型になったのか,残業で疲れた人も取り込むためか, 8時,9時,10時と回転時間が延びる傾向にはある. それでも,郊外のチェーン店は早くて10時,夜2時過ぎても営業している本屋や, レンタルビデオ併設では24時間営業も少なくない.

夜更かし人間に優しい本屋は近くにないのだろうかと思っていたら, 発見. 上野の TSUTAYA だ.

このお店,なんと朝の5時まで営業しているのだ. 1階が新刊書店,2階がセルCD,DVD,3階がレンタルCD,DVD. 規模の割には品揃えはいいほうだろうか. 1階の本屋については,面白い棚の並べ方になっている. 購買層はかなり絞り込んでいる. とんがっているとでも言おうか. その上で,この棚を見る人はこういうものも見たがるだろうという組み合わせで本や雑誌がおいてある. その分,この規模の本屋でも置いているようなものがほとんどなかったりする. 誰かプロデューサーがデザインした棚のような気がする.

夜中の妙な高揚感の中ではついつい手を出したくなるような書籍が並んでいるのだが, あくまでも今日は散歩であって,これから読み出したらとんでもないことになると, 買い控え. レンタルも棚だけ眺めて撤退した.

TSUTAYA がある大通りからちょっと歩くと, こんな時間にまだ飲んだり遊んだりしているのかというスーツ姿の若い男たちや, 女性に声をかける営業着姿の男, 飲んでかない?と声をかける女性たち. どうやら歓楽街の入り口に TSUTAYA 上野店はあるようだ.

なるべく人に当たらないように上野駅のほうへ歩き, 京成上野駅のあたりから,上野公園へ入る. 池之端を回るか,上野公園を突っ切るのが, わが住処への近道なのだ.

昼間の上野公園は,美術館・博物館・動物園目当ての老若男女から芸大の学生まで, 人でいっぱいだ. ところが,この深夜の時間,人っ子一人いない. TSUTAYA の周りから上野駅のほうへ向かう間は人でいっぱいなのだが, 上野公園に入ったとたん,周囲の木々が暗く迫り, 誰の気配もない. 夜の都内の公園で起きるという「オヤジ狩り」なる言葉が頭をよぎる. もしも襲われても誰もいない,助けてくれない.

何年か前まで,上野公園にはテントハウスがひしめいていた. 工事の養生に使うポリのブルーシートでこしらえたテントがたくさんあったものだ. いつの間にかまったく見かけなくなってしまった. 彼らはどこに行ったのだろう. テントハウスがあるほうがだだっ広い夜の公園は怖くないのではないか.

そんなことを感じつつ,上野桜木町のほうへ抜ける. 人が歩いていなくても,物音がすれば誰か聴いているだろうという思いが少し心をほっとさせる.

人がうごめく夜の街と,広大な闇の公園,そしてひしめき合う住宅. これらが隣り合わせに同居している. YNS の辺縁の姿だ.


(2007.06.01 librarian)