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MakisimaDiary20091224 - *「鉄道遅れ4万本、半数超が自殺原因…首都圏」 (YOMIURI ONLINE) の表と裏

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*「鉄道遅れ4万本、半数超が自殺原因…首都圏」 (YOMIURI ONLINE) の表と裏

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YOMIURI ONLINE(読売新聞)の2009年12月22日の記事に

- 鉄道遅れ4万本、半数超が自殺原因…首都圏 : 社会 : YOMIURI ONLINE(読売新聞): http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20091222-OYT1T00039.htm

というものがある.
Twitter で何人かの方がこの記事についてつぶやいているのを見て,
その方々のつぶやきよりもこの記事そのものへの衝撃が大きくて,
RT せずにつぶやいた.
( http://twitter.com/libra_makisima/status/6913092590 )

> 『 
> こりゃひどい.「鉄道遅れ4万本、半数超が自殺原因…首都圏」 
> http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20091222-OYT1T00039.htm 
> 』

そのグラフ「首都圏の輸送トラブルによる影響本数」では「自殺」が急激に多くなっているのでインパクトが大きい.

http://www.yomiuri.co.jp/photo/20091222-606345-1-L.jpg (読売新聞の画像へ直リンク)

その日から翌日にかけてたくさんの方々に RT していただくことになった.
こんなに RT されたのは初めてで,RT の怖さも感じたし,
RT をいやがる方々の気持ちも少しは感じられた.

そして,この読売新聞(YOMIURI ONLINE)の記事は,
私のつぶやきの RT だけでなく,他の経路でも引用され続けていた.

そんな中でなんとなくモヤモヤしていたのは,
読売新聞以外へのリンクが見あたらなかったこと.
新聞社や報道各社のニュースサイトは多いのに,なぜ他で話題にならないのか.

また,「鉄道遅れの4万のうちの半分が自殺」と読むと,
「鉄道への飛び込み自殺が首都圏で2万人」と思えてしまうこと.
1年は365日だから,

> 20,000 [人] ÷ 365 [日] = 54.8 [人/日]

で,首都圏では,1日あたり50人あまりが飛び込み自殺している?

一人が飛び込み自殺をすると,同じ路線,関連する別路線でも何本も列車が止まるはずだが,どういう本数なんだろう.
列車本数? ,自殺の数?

日本人の年間の自殺者数は何人だったか.数万人ではなかったか?
そのほとんどが飛び込み事故なのか?

ということで,
記事の元データを探してみることにした.

記事からわかるのは,「国土交通省」「輸送障害」.
ググる.

- 報道発表資料:「首都圏鉄道輸送障害対策会議」の開催結果について - 国土交通省 : http://www.mlit.go.jp/report/press/tetsudo08_hh_000008.html

その添付資料

- 「首都圏鉄道輸送障害対策会議」の開催結果について : http://www.mlit.go.jp/common/000055543.pdf

中身をよく見てみよう.

まずは,1の輸送障害の発生件数.
列車の遅れが多くなっているのであろうことがわかる.

http://www.makisima.org/wiki/img/20091224_RailwaySuicideMaterial/000055543_p6_s25.jpg
&link(拡大,http://www.makisima.org/wiki/img/20091224_RailwaySuicideMaterial/000055543_p6.jpg)

2(首都圏)と3(全国)の原因別「件数」でグラフに自殺が現れる.
赤いところが自殺.
おおざっぱに見ると,
首都圏(東京・埼玉・千葉・神奈川)で200〜300件程度,
全国で600〜700件程度.
この「件」はたぶん自殺人数とほぼ同じと見なしてよいのだろう.
首都圏では増える傾向にあるが,必ずしも急激に増えているとは思えない.


http://www.makisima.org/wiki/img/20091224_RailwaySuicideMaterial/000055543_p7_s25.jpg
&link(拡大,http://www.makisima.org/wiki/img/20091224_RailwaySuicideMaterial/000055543_p7.jpg)


そして,「4 輸送障害に伴う総影響列車数の推移(東京都,埼玉県,千葉県,神奈川県」のグラフが YOMIURI ONLINE の記事に採用されている.
これは明らかに赤い自殺原因の数が増えている.
平成20年度は輸送障害に影響を受けた列車数が 40,600 になっていて,列車遅れ4万本ということになる.
5は全国.

http://www.makisima.org/wiki/img/20091224_RailwaySuicideMaterial/000055543_p8_s25.jpg
&link(拡大,http://www.makisima.org/wiki/img/20091224_RailwaySuicideMaterial/000055543_p8.jpg)



6と7は1件の事故に影響される列車数.
赤い自殺による列車数が増えていることがわかる.


http://www.makisima.org/wiki/img/20091224_RailwaySuicideMaterial/000055543_p9_s25.jpg
&link(拡大,http://www.makisima.org/wiki/img/20091224_RailwaySuicideMaterial/000055543_p9.jpg)

平成20年度首都圏の,
飛び込み自殺の件数は 307 件(グラフ2),
それぞれに影響を受けた列車数は平均 68.8 本(グラフ6).

> 307 [件] × 68.8 [本/件] = 21,121.6 [本]

で,自殺に影響された列車数は,2万本となるり,全体の遅延本数の半分という計算になる.
で,自殺に影響された列車数は,2万本となり,全体の遅延本数の半分という計算になる.

これらを総合すると,
列車に飛び込み自殺をする人は増える傾向にはあるが,
明らかに増えているのは,1人の飛び込み自殺によって影響を受けた列車の本数のほうである.
つまり,利用者側からすれば「人身事故で電車が止まった」頻度が数年前の倍になっているので飛び込み自殺者が急増しているように思えるが,
自殺行為自体はその印象ほどには増えていないはずである.

なお,これらのグラフでは「自殺」が成功したかどうかは読み取れない.

データ・統計の一部を取り出して見せられたときの印象・受取り方・解釈が,
実際の現象を表わしているかどうかはわからない.
今回,私の場合,YOMIURI ONLINE の記事を読んだときの解釈は,
元データを読んだときの解釈とはだいぶ異なっていたということである.
印象も,2万(本)と300(人)では,数字で受ける衝撃度合いが違いすぎた.

いずれにせよ,痛ましいことには違いない.


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さて,
以上は新聞記事と元のデータとの読み比べ.
飛び込みがそんなに多いのか? という疑問にもっとわかりやすく答えてくれているサイトがある.

- 図録▽自殺手段別自殺者数の推移 : http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2747.html

http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/images/2747.gif
(直リンク.非営利は転載フリー)

全国の自殺者3万人,縊死が2万近くで圧倒的に首つりが多い.
飛び込みが685人(2008).
厚生労働省「人口動態統計」を元にしているらしい.
上の国交省のデータと若干の差はあるが,だいたい同じくらいの人数になっている.

念のために厚労省のサイトでこの元データを探したが,

-政府統計の総合窓口 GL08020103 : http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001057775

にある
「5-36 自殺の手段別にみた性・年次別死亡数及び百分率 」 
( http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/Csvdl.do?sinfid=000003070996 )
がわかりやすくまとまっている(年度の幅は狭い).
おそらく,いくつかの厚労省系データを統合したか,うまく取り出してきてグラフ化したものだろう.
サイトを眺めた印象では,グラフ化と解釈で意図的なごまかしはしていないと思われる.

このサイトは他にもいろいろなデータをグラフ化していて,なかなか面白い.


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**YOMIURI ONLINE の記事全文引用

> 鉄道遅れ4万本、半数超が自殺原因…首都圏

>> 首都圏の鉄道の運休や遅れの本数が昨年度、4万600本に達し、その半数以上が自殺に起因することが、国土交通省の調査で明らかになった。

>> 同省は21日、JR東日本や東京メトロなど首都圏の主要12社を集め、自殺防止に有効とされる「青色照明」の検証などを呼びかけた。

>> 調査は、東京、神奈川、埼玉、千葉の1都3県で、列車の運休や30分以上の遅れにつながった輸送障害のデータを原因別にまとめた。

>> 全国の輸送障害は2008年度、07年度から1000本ほど減ったものの、首都圏だけで見ると4400本も増加。首都圏での原因トップは「自殺」で、07年度から2900本増えて2万1100本に上った。自殺に次いで多かった「信号設備などの故障」によるものは7200本だった。

>> トラブルそのものの件数は、05年度をピークに徐々に減っており、08年度は前年度より20件少ない679件だった。ただ、自殺の場合、08年度は前年度より19件多い307件となるなど、ほかの原因によるトラブル件数が減る中で唯一増え続けている。

>> 私鉄関係者は「自殺の場合、発生後の対応に時間がかかり、影響本数が多くなってしまう傾向がある」と話している。

>(2009年12月22日04時52分  読売新聞)

( http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20091222-OYT1T00039.htm )


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(2009.12.24)