- 太田猛彦、「森林飽和 ― 国土の変貌を考える」、2012、NHKブックス
- 「NHK出版 | 森林飽和 国土の変貌を考える」 http://www.nhk-book.co.jp/engei/shop/main.jsp?trxID=C5010101&webCode=00911932012
興味深い内容でした。
日本の砂浜が消えていっていることはよく知られていますが、そもそもは森林が豊かになって山崩れがなくなり、土砂が河川に流出しなくなったからだろうとのこと。戦前は海岸の飛砂で家が埋まるほど砂にあふれていたんだそうです。最近、大雨というと深層崩壊が目立つのも、森林が広がって表層崩壊が起こらなくなり、河川も氾濫しにくくなったということのようです。
里山というと私は田園の周りに広がる緑豊かな森林を思い浮かべてしまうのですが、実際には荒れ地、草山、禿げ山だったのだそうです。1900年頃の写真がいくつも載っていますが、山に木がありません。浮世絵では山や道に木がぽつんと生えている風景が描かれていますが、絵画表現として他の木々が省略されているわけではなく、そういう何もない風景が広がっていたとのこと。茶色(地肌)や黄緑(草・低木)ののっぺりした山だったのですね。当時、燃料になるのは木だけですから、どんどん伐採されてしまいます。
口絵の写真は歌川広重の東海道五十三次、日坂ですが、
山中の木々はまばらで、地肌がむき出しの山も見える
ということで、冒頭のこの絵です。
松は痩せた土地を好むので、松だけ生える。その松葉も集めて使ってしまうのだそうです。本書では触れられていませんが、そんな状態なら戦前は松茸がたくさん採れたはずです。現在、松茸を生やしたかったら、木を伐採して日当たりを良くしろというくらいです。
全編にわたって様々な知見と事柄が有機的につながって述べられているので、ご覧になってみてください。
(2012/12/08)
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