ビジョルド「任務外作戦」(ヴォルコシガン・サーガ)

「任務外作戦」(“A Civil Campaign“(1999), “Winterfair Gifts“(2004))、L. M. ビジョルドのヴォルコシガン・サーガ、13作目、最新邦訳です。昨年の前作「ミラー衛星衝突」(“Komarr“(1998))の翻訳は長い年月待ちましたから、1年などあっという間です。途中、五神教シリーズ(ビジョルド「影の王国」)も邦訳が出たので、余計短く感じられました。次作の Diplomatic Immunity も翻訳・出版してくれると嬉しいですね。

翻訳が待ちきれずに原書に目を通したのが2007年、あらすじだけメモしてありました。

そのあと5年ほどして CryoburnCaptain Vorpatril’s Alliance が出版されていますが、まだ読んでいません。読もうとしたのですが、この登場人物はどんな人だったかな…?ということになって原書を読み返そうとしていました。今回の「任務外作戦」もそうですが、翻訳版では細かい活字で分厚い上下巻、英語で読もうとすると時間がかかるし、私の英語力ではきちんと意味がわからないし、なかなか大変です。電子書籍が登場してからはコピペで辞書も引きやすく、多少楽になりましたけれど。

Komarr“, “A Civil Campaign“, “Winterfair Gifts” の3作はマイルズ・ヴォルコシガンの生涯では密接につながった話で、英語版ではまとめて “Miles in Love” としてオムニバスにもなっています。

以下、もしかしたらネタバレしているかもしれないのでご注意。

聴聞卿になったマイルズが同僚の聴聞卿ヴォルシス教授とともにコマールの小太陽群衛星ソレッタ・アレイ(つまりミラー衛星)破壊事件の調査にやってきて、ヴォルシスの姪エカテリンのもとに滞在するのが「ミラー衛星衝突」(“Komarr“)です。エカテリンはバラヤーのヴォル制度のもと抑圧されたヴォルの妻・母として描かれています。ヴォルは日本の武家、戦前の家制度、家父長制を思わせます。終盤ではそのおしとやかなエカテリンが意外にも大活躍――大暴れします。ちなみに、その時に、とある重要装置が乗ったフロート揺籃なるものが登場しますが、原作ではfloat cradleなのでフロート・クレードル、意味的には浮き架台といったところでしょう。

このコマールの事件の本質は例によって機密となります。「任務外作戦」(“A Civil Campaign“)では、寡婦となったエカテリンは息子のニッキとともにバラヤーに帰星、ヴォルシス教授夫妻の家から大学に通い始めます。マイルズはお近づきになろうとヴォルコシガン館脇の庭園設計をエカテリンに依頼しますが、喪服の彼女の周囲には求婚者が続々。マイルズのクローン兄弟マークは遺伝子昆虫学者を館に連れてきて、恋人のカリーン・コウデルカたちとバター虫ベンチャー事業を始めますが、次から次へと騒動が持ち上がります。バラヤーでは皇帝グレゴールとコマール女性の結婚準備が進みますが、一方で国主の相続問題が2国で発生、それに絡んだ惑星外由来の遺伝・生命・医療技術もあいまって、ヴォルの派閥で政争が繰り広げられます。軍事国家バラヤーの社会を、軍事面ではなく civil、民事面から描いた作品です。ヴォル達の婚活・相続協奏曲……とでもいいましょうか。

「冬の市の贈り物」(“Winterfair Gifts“)は後日譚で、マイルズの結婚式に訪れたデンダリィ傭兵艦隊のスーパー兵士タウラ軍曹と、警備隊(警察)出身で最年少の親衛兵士ロイックの視点から語られます。

次の “Diplomatic Immunity” は直訳すると「外交特権」です。時間軸ではマイルズのハネムーン旅行ですが、クァディやセタガンダが登場します。この調子で来年くらいに日本語版が出てくれないものでしょうか 🙂

出版社によるシリーズ紹介は

と物語世界の中での時間順になっていますが、読み始めるなら刊行順のほうが良いでしょう。初めてシリーズを読む方には、マイルズ・ネイスミス・ヴォルコシガンの最初の冒険「戦士志願」か、両親のコーデリア・ネイスミスとアラール・ヴォルコシガンとのなれそめ「名誉のかけら」を、「戦士志願」の次にはSF中編集の逸品「無限の境界」をおすすめしておきます。( 「ものがたり:L.M.Bujold, Miles Vorkosigan/Naismith Monogatari, Makisima Bunko」 )


  • 任務外作戦〈上〉 – ロイス・マクマスター・ビジョルド/小木曽絢子 訳|東京創元社 (出版社)
    • ロイス・マクマスター・ビジョルド 作・小木曽絢子 訳、「任務外作戦〈上〉」、2013/3/22、東京創元社(創元SF文庫)、ISBN:978-4-488-69816-4、1100円、装画:浅田隆、装幀:矢島高光
    • Written by Lois McMaster Bujold, translated by Ayako Ogiso, the first volume of “Ninmu-gai Sakusen“, March 2013, published by Tokyo Sogensha Co., Ltd., ISBN:978-4-488-69816-4, cover illustrated by Takashi Asada, cover designed by Takamitsu Yajima, (original: “A CIVIL CAMPAIGN – A Comedy of Biology and Manners“, 1999)
  • 任務外作戦〈下〉 – ロイス・マクマスター・ビジョルド/小木曽絢子 訳|東京創元社 (出版社)
    • ロイス・マクマスター・ビジョルド 作・小木曽絢子 訳、「任務外作戦〈下〉」、2013/3/22、東京創元社(創元SF文庫)、ISBN:978-4-488-69817-1、1100円、装画:浅田隆、装幀:矢島高光
    • Written by Lois McMaster Bujold, translated by Ayako Ogiso, the second volume of “Ninmu-gai Sakusen“, March 2013, published by Tokyo Sogensha Co., Ltd., ISBN:978-4-488-69817-1, cover illustrated by Takashi Asada, cover designed by Takamitsu Yajima, (original: “A CIVIL CAMPAIGN – A Comedy of Biology and Manners“, 1999, and “Winterfair Gifts“, 2004)

L. M. ビジョルド、「任務外作戦(上・下)」 表紙

  • ミラー衛星衝突〈上〉 – ロイス・マクマスター・ビジョルド/小木曽絢子 訳|東京創元社
    • ロイス・マクマスター・ビジョルド 作・小木曽絢子 訳、「ミラー衛星衝突〈上〉」、2012/3/23、東京創元社(創元SF文庫)、ISBN:978-4-488-69814-0、980円、装画:浅田隆、装幀:矢島高光
    • Written by Lois McMaster Bujold, translated by Ayako Ogiso, the first volume of “Miraa Eisei Shototsu“, March 2012, published by Tokyo Sogensha Co., Ltd., ISBN:978-4-488-69814-0, cover illustrated by Takashi Asada, cover designed by Takamitsu Yajima, (original: “Komarr“, 1998)
  • ミラー衛星衝突〈下〉 – ロイス・マクマスター・ビジョルド/小木曽絢子 訳|東京創元社
    • ロイス・マクマスター・ビジョルド 作・小木曽絢子 訳、「ミラー衛星衝突〈下〉」、2012/3/23、東京創元社(創元SF文庫)、ISBN:978-4-488-69815-7、980円、装画:浅田隆、装幀:矢島高光
    • Written by Lois McMaster Bujold, translated by Ayako Ogiso, the second volume of “Miraa Eisei Shototsu“, March 2012, published by Tokyo Sogensha Co., Ltd., ISBN:978-4-488-69815-7, cover illustrated by Takashi Asada, cover designed by Takamitsu Yajima, (original: “Komarr“, 1998)

L. M. ビジョルド、「ミラー衛星衝突」、表紙

(2013/3/24)

投稿者:

librarian

http://makisima.org/ の librarian です。マキシマ文庫=書斎 の主。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です